遺産分割協議の流れをご説明します
相続の話をする前にすることは、遺言状の有無の確認、相続財産の調査、相続人の範囲の確定です。相続財産の調査の結果によっては、相続放棄を検討する必要があります。
遺言状の有無の確認
亡くなった方(被相続人)の遺言状がある場合、その内容どおりの相続をすることになります。例外的に、相続人全員の同意がある場合には、遺言状と異なる内容での遺産分割協議が可能です。
遺言状は、ご自宅のほかに公証役場や法務局に保管されていることがありますので、これらの場所に問い合わせて遺言状の有無を確認してください。
被相続人が作成した遺言状(自筆証書遺言)の場合は、家庭裁判所で検認手続きが必要です(民法1004条1項)。検認手続きを経ずに遺言状を開封してしまうと過料を科される(民法1005条)おそれがあり、トラブルのもととなりますのでご注意ください。
相続財産の調査
遺言状がなかった場合、相続人全員で遺産分割協議をすることになりますが、その前提として、被相続人の財産(相続財産)がどこにどのくらいあるのか調べる必要があります。
不動産は、毎年5月に送られてくる固定資産税納税通知書を確認するか、市町村役場で名寄帳(なよせちょう)などを取得すると被相続人の持っている不動産を把握することができます。
預貯金は、ご自宅にある通帳やキャッシュカードから確認できますが、近年ネットバンキングを利用して通帳などをお持ちでない方も少なくないと思います。また、株式などの有価証券はインターネットを利用して保有している方も少なくないため、被相続人の使用していたパソコンや携帯電話などから調べる必要があります。
被相続人の加入している保険は、ご自宅にある保険証券や通帳からの引き落し、生命保険控除証明書などから確認できます。なお、生命保険は例外的な場合を除き、相続の対象財産とはなりませんので、ご注意ください。
被相続人が負っていた借金(負債)も相続の対象となる財産です。被相続人に負債があるかどうかは、預貯金からの引き落しやローン会社のカードや請求書、利用明細書から調査します。
相続人の範囲の確定
相続財産の調査とともに、誰が相続人となるのか、相続人の範囲を確認しておくことも大切です。
被相続人の配偶者、子ども(直系卑属)、親(直系尊属)および兄弟姉妹が相続人となり得ますが、その順番は民法により定められています。
まず、配偶者は常に相続人となります(民法890条)。被相続人に子どもがいる場合は、配偶者と子どもが相続人となります(民法887条1項)。子どもが先に亡くなっている場合は孫が相続人になります(代襲相続、だいしゅうそうぞく、民法887条2項)。
被相続人に子どもがいない場合は、配偶者と親が相続人となります(889条1項1号)。被相続人に子どもも親もいない場合は、配偶者と兄弟姉妹が相続人となります(民法889条1項2号)。兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は、亡くなった方の甥姪が相続人になります(民法889条2項、887条2項)。
子どもや孫が先に亡くなった場合は、さらにその下の代まで相続権が移っていきますが(再代襲、さいだいしゅう)、兄弟姉妹およびその子が先に亡くなった場合は、再代襲はありません。
相続人の欠格事由にあたる方や、被相続人に遺言で排除の意思表示をされた方は相続人になることができません(民法891~893条)。
相続人にあたる方がどこに住んでいるのかわからず、連絡が取れない場合などは、戸籍謄本などから住所をたどります。
負債がある場合の相続放棄・限定承認
相続財産の調査の結果、被相続人に負債がある場合に相続をすると、相続人はその法定相続分に応じて負債を承継することとなります。
被相続人の負債を背負いたくない場合には、相続放棄の申述などの手続きをする必要があります。相続放棄とは、相続人でなかったこととなるため、プラスの財産もマイナスの財産もいずれも承継しないこととなります(民法938条、939条)。
被相続人の財産のうち、借金などのマイナスの財産が預貯金などのプラスの財産を上回る場合には、相続放棄を選択したほうが良いかもしれません。
相続放棄の申述手続きは、3か月以内(期間の伸長は可能、民法915条1項但書)に行わないと相続したこととなります(民法915条1項、921条第2号)。
なお、プラスの財産がマイナスの財産を上回る場合でも、被相続人の財産の中から負債を清算したい場合には、限定承継という手続きをとることもできます(民法922条)。限定承継は相続人全員が共同して行う必要があります。
相続をするのか、相続放棄や限定承認をするのかなどを決める判断材料は、相続財産の内容によります。
相続放棄などは期限が設けられているため、後日、相続財産が判明して「相続放棄しておけばよかった」、あるいは「相続放棄しなければよかった」と後悔することがあるかもしれません。そのため、相続財産の調査は正確に行う必要があります。
また、遺産分割協議は相続人である親族間で話し合うことになりますが、相続財産の分け方によって、もめてしまうことも十分にあります。